前々号の「オセラ106号」で紹介した「岡山市北区大和町の分譲地」。古くは承応三年（1654年）の大水害をはじめ、幾度もの災害に襲われた岡山城下を守り続けてきた百間川の荒手。その恩恵によって、岡山市中心部とこの大和町界隈は、「安心して暮らせる町」として栄えてきた。今回改めて、百間川の荒手を築き、ふるさと・岡山の繁栄の礎を築いた郷土の偉人の偉業を振り返りながら、大和町の魅力に触れてみたい。

上の航空写真は今年の10月初旬に撮影したもの。最新の岡山市の姿といっても過言ではないだろう。そして真ん中に位置する整然と区画されたエリアが今回、「秦建設」が手がけた「大和町分譲地」。こうして広く俯瞰すればするほど、これほどの都心でありながら、全39区画というゆとりを誇っていることに驚きを隠せない。振り返れば今から23年前、ここ大和町の魅力に惚れ込んだ秦社長。「いわゆるこのエリアは強固な永忠堤（三つの荒手）で守られ続けてきた稀少なエリアです。永忠堤のおかげで大和町は安全に暮らせる町として知られるようになりました。事実、戦前は旧日本陸軍の将校用官舎が建てられるほどの誉れ高い町になっていました」。

岡山藩きっての英才、津田永忠が成し得たもの。

ここで永忠さんこと、津田水忠について振り返ってみたい。かの池田光政をして「その才、国中に双ぶものなし」と言わせしめた岡山藩きっての英才。天下の名園・後楽園の建設、国宝・閑谷学校の建設と経営、倉安川の開削と倉田新田、幸島新田、沖新田の開発、そして百問川の開削...。それらは、300年あまりを経た今も岡山県の繁栄を支える財産であり続けている。驚くことに永忠は、これらの治績をわずか20余年で成し遂げた。そんな偉人を「永忠（えいちゅう）」さんの愛称で慕う岡山県民は今も少なくない。永忠ゆかりの沖田神社や永忠屋敷跡の石碑など、彼を偲ぶ遺蹟が各地に残るのもその現れだろう。

「秦建設」設立以来、最大規模のプロジェクトを成し得た今。

全39区画という規模を誇る「大和町分譲地」は、「秦建設」の歴史のなかでも最大級のプロジェクトとなった。「道のない土地（田んぼ）に道をつけて人が快適に住める宅地にしました。途中、紆余曲折あって23年もの歳月を要しましたが、やっと胸を張って住んでいただける『安心・安全』の分譲地ができました」と秦社長は胸を張る。
そして改めて、「銀行をはじめとする金融機関の方々の賛同がなければ、成し得なかった事業。多くの賛同者に背中を押していただいたこと、そのご恩を忘れることはありません」とえりを正した。
「大和町分譲地」という、23年来の「志」を成し遂げた秦社長の感慨はひとしおだ。そんな心地よい達成感からか、めずらしく秦社長が取材終わりに若かりし頃のエピソードを聞かせてくれた。それは、秦社長が生まれ故郷の大分を出て大阪の建設会社に就職した時の話。秦青年18歳の春。

郷土の先人、たくさんの恩人。
岡山の街を安心の地に。

「大阪へは、別府港から船に乗って向かいました。母の記憶ではその時私は母にこう言ったそうです。『オレは将来社長になる。社長になるまではここには帰って来ん』と」。
青雲の志を抱く18歳の自らの姿を懐かしんで思わず微笑む秦社長。青年特有の強がりもあったろう、そして淋しさもあったろう、そう言い残して秦青年は、故郷を後にした。
その後、縁あって岡山の地に「秦建設株式会社」を立ち上げて37年。その仕事ぶりは、毎回オセラ誌面でもつづってきたが、その道のりはまさに山あり谷あり。幾多の荒波や洗礼を浴びながらも秦社長は「社長」として会社を率いながら、今回の「大和町分譲地」という一大プロジェクトを完遂することとなった。
「郷土の先人やたくさんの恩人たちの厚情が忘れられません。無鉄砲者の私に生きる場を与えてくださった。この分譲地もその証のひとつになりそうです」と話を締めくくった。

70万政令指定都市として栄え、令和の時代を迎えることになった岡山市。改めて航空写真を眺めてみると、ふるさとの自然や街並みの美しさに心洗われる。その街並みの一角をかつて「社長になる」と故郷を出た青年が「安心の地」として形作ったこと。そこに、岡山への大きな愛と縁を感じる。