今回の物語の主人公・島村佳宏さんと秦社長の出会いはまさにいくつもの「奇跡」の積み重ねに満ちていた。昨年の本誌76号で紹介した『アリビオ富田』(オーナー難波泰彦さん)の町内川掃除の様子。その現場にいた佳宏さんの母君の弟さん(叔父)が今から2年前に島村さんと秦社長を引きあわせたことから、島村家の新たな歴史が始まった。
「叔父は町内清掃に毎年参加する秦社長のことを以前から気に留めていたようです。地元民でもない建設会社の社長がマンションオーナーと一緒に川掃除をしている。叔父はうち(島村家)が古い借家と土地のことで困っていることを知っていましたから、そんな秦社長の人がらと秦建設の仕事ぶりを見て、「相談するならこの人」と私に紹介してくれました」と佳宏さん。
とは言え、その後マンション建設を提案するも佳宏さんのお母さんは反対。その理由はかつてご主人(佳宏さんの父)が貸家業をしていた頃、お母さんは一軒一軒貸家を回り、頭を下げ家賃を集金して歩いたそう。その時の煩わしさと苦労を息子に背負わせたくないという親心。そのいっぽうで荒れていく土地への不安も年を追うごとに募っていった。
「正直、その頃はすべて母におんぶに抱っこ。私は家のことは何もしていませんでした。ところがわが家と土地の現状を知るうちに、「これは一刻を争う事態」だと気付きました。家長の私が決心することで現状を変えたいと思いました」と佳宏さん。その後、島村家のマンション計画は軌道に乗っていった。
「お母さまにはいろいろな思いがおありでした。それでも最後に決断したのは佳宏さんです。働き者のご両親の背中を見て育ち、そのDNAをしっかりと受け継いだ佳宏さんだからこその決断だったと私は思います」と秦社長。その言葉に康子さんは…。「主人がどうすべきか悩んでいた頃、秦社長から「奥さまは、ご主人の背中をしっかり押してあげてください」と言われました(笑)」と当時を愉しそうに振り返る。
メイン写真はこの日、『サンセール東古松』の屋上で撮影した1枚。デッキの真ん中には佳宏さんお手製のクリの木の長椅子が。「お母さま(昨年12月に逝去)に、この9階の屋上から長年過ごしたわが家と畑とを眺めての感動の話をお聞かせいただくつもりだった—。いや、きっとお母さまはもっと高いところからこの様子を見て喜んでおられるはずです」と噛みしめるように語る秦社長。その言葉に佳宏さんと康子さんも満面の笑みで静かにうなずいた。
「暗かったこのエリアがマンションのおかげで明るくなった」と佳宏さん。その言葉に当主としての揺るぎない誇りを感じた。
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