坪井昌顕、29歳。職業は秦建設株式会社の現場監督、入社7年目、総社市出身。今回、若き坪井監督が携わった案件は『ウィンクルム東古松』。築42年と築35年の2棟からなるマンションのリフォームが坪井監督に課せられたミッションだ。
40年にもわたって、多くの入居者に愛されてきた『ウィンクルム東古松』。当時、着工に踏み切ったのは現オーナーのお父さま(故人)。当時を振り返って、お母さまはこう話す。「その頃、この辺りは平屋ばっかりで、3階建ての『ウィンクルム東古松』は、わが家の自慢でした」。とはいえ長きにわたって酷使された建物は劣化も激しく、地震や火災への備えも時代に合わなくなってきた。秦社長は新築を奨めたがオーナーさまは頑として譲らずリフォームに踏み切る。「まず最初に苦心したのは建物の解体です。どこまで撤去して、どこまで残せばいいのか。それまで新築の経験はあったのですがリフォームは初めて。とにかく現場をくまなくチェックしてその都度、的確に見極める必要がありました。難しい作業でしたが高所作業車を駆使して、社長と副社長のアドバイスを参考にしながら進めました」と坪井監督。解体作業後も現場ではさまざまな課題が浮かび上がってきた。新しいベランダの取り付けと強度確保、何より傷みが激しい床の上での作業は細心の注意を必要とした。「鉄筋のサビ止めや雨漏り箇所のチェックなど、ひとつずつ確認しながらの改修工事でした」。とつとつと苦労を語る坪井監督だが、施主のお母さまの話になると若者らしい笑顔が戻った。
足場を撤去し、出来上がった建物を見上げたお母さま。会うたびに「ああ綺麗になった。また近所で一番の建物になった」とねぎらいの言葉をかけてもらったのがうれしかったと坪井監督。加えてお母さまからの「きっと主人が見に来て、喜んでますよ…」としみじみとしたつぶやきを耳にした。オーナーさまがリフォームにこだわった理由がそこにあった。親から子へ、子から孫へ。家族を大切に思う優しさが連綿と続く。
余談ながら、秦社長は改修工事が始まる前、夜ひとりで『ウィンクルム東古松』を訪れ、傷んだ床や壁を撫でながら、「やれるか?」と建物に語りかけたという。そして建物からの「やれるかも…」の声に「なんとかなる。よし俺に任せろ」と答えた。
社内検査の日、その話を初めて聞いた坪井監督は、秦社長の経験値、建物の心を知ろうとする凄みに圧倒されたそうだ。決して妥協のない、堅牢な建物づくり、「秦建設のスタンダード」はこうして若き現場監督に継承されていく。
写真の花は、工事中、何度もお母さまが現場事務所に足を運び、飾ってくれたもの。無骨なスタッフたちが厳しい工事の合間、ずいぶん心癒されたそう。
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